いつの間にか我が家へ入り込んだハツカネズミ、あっけなく罠に掛かってしまったが・・・

マジマジと観察したり、種類特定の為にネットで検索したのが良くなかった。

特に画像検索。
検索結果のページには、何とも可愛らしい画像が幾つも並んでいるではないか。
害獣なんだから醜い不気味な姿をしていてくれれば良いものを、何でまたこんなに可愛い姿を？
俺は今、こんなにも可愛らしいヤツの命を奪おうとしているのか？
もしかするとこの可愛らしさは、コイツらの生き残る為の作戦なのか？
だとすればその作戦はたった今、成功するかもしれない。
なぜなら、ネズミホイホイに掛かって身動き出来ないその姿がとても憐れに思えてきたからだ。
こんな可愛らしい動物をゴミと一緒に捨てる事に段々気が引けてきたからだ。
そう、死へと追いやる事に躊躇し始めたのだ。

しかし、ハツカネズミはネズミホイホイにベッタリと張り付いている。


　　　

コイツを生かすならばシートからひっぺがして、粘着剤を除去しなければならない。
逃げ出そうと何度ももがいたせいで、粘着剤はコイツの体毛の1本1本にまで絡み付いてしまっている。
この粘着剤は柔らかいが粘性がかなり強力である。恐らく、全部綺麗に除去するのは不可能だろう。
このベタベタが残ったままでは、野に放してもいずれ身動きが取れなくなったり、何らかの影響が
出てしまい、生きては行けないだろう。
ネズミが掛かった後の事は想像出来た筈なのに、良く考えず安易な方法を選んでしまった。
前もってよく調べておけばダメージを与えず生け捕りにする方法も見つかったのに。
ネズミホイホイを使った事を激しく後悔した。



しかし、こうなったらやれるだけやってみるしかない。
ネズミホイホイの注意書きを読むと、粘着剤が手や衣服についた場合はオリーブ油かサラダ油を
使って拭き取り、その後石鹸や洗剤で洗えとある。
オリーブ油が無かったのでサラダ油、拭き取る為の布や綿棒など色々と用意した。
ネズミは様々な病気を媒介することがあるので万が一の事を考え、細菌などの感染を防ぐ為に
使い捨ての薄いゴム手袋、更にその上から軍手を嵌めた。
幸いこの薄いゴム手袋と軍手はウチにたくさんあるので使い捨てに出来る。

ハツカネズミの背中を掴み、下側に差し込んだ割り箸でゆっくりと恐る恐るシートから剥がす。
ストレスのあまり脱糞したのかシートには多くの糞と、逃げようと何度ももがいたせいで毟れて
しまった体毛がたくさん付着している。
少々不気味なようにも見えたブヨブヨで大きな目は、実は涙のような粘液がたくさん溢れていたせいで
そう見えるだけだったのだ。

「怖くて泣いてたのか？　いやはや、なんとも悪い事をした」

綿棒で目の周りを拭くと、小さくつぶらな黒い目が現れた。



自分で仕掛けといて言うのも何だが、粘着剤の絡み付きがとても酷い。
シートから外したにも関わらず、自力では逃げ出すどころかまともに身動きすら出来ない有り様だ。
長時間身動き出来ない状態だったので、まず水を与えようとスポイトで口元に水を垂らすと
細かく口を動かしながら何度も飲んでくれる。
喉の渇きが潤って幾らか元気を取り戻したのか、手の中で急に暴れてささやかな抵抗を始めた。

「いやいや、逃げたいのは分かるが、まずお前の体に付いた粘着剤を取らなければならんのだよ。」

綿棒にタップリ染み込ませたサラダ油をハツカネズミの体に塗っていき、粘着剤と混ざり合うよう
体毛を揉みほぐしながら擦り込んでいく。ある程度やったらティッシュペーパーや布で油を拭き取る。
小さな体をあまり長時間こねくり回すのも良くないかなと思い、間に休憩を挟みながらこれを何度か
繰り返した。


　　　

途中激しく暴れて抵抗するので、餌でも与えれば落ち着くかなとクルミを与えたところ、爪楊枝の先
ほどの小さな歯でカリカリと音を立てて齧じり付いた。


　　　

　　　

「そうだ、お前はこれが食べたくて罠に掛かってしまったんだよなぁ」

旨そうに齧じり付くその姿を見て、改めて申し訳ない事をしたと思った。



　つづく