スウェーデン飯盒 其之弐

Dancinghorse

2009年01月27日 20:12

前回記事「スウェーデン飯盒 其之壱」からのつづき。

 
一般的には「スウェーデン軍メスキット」、通称では「スウェーデン飯盒」などと呼ばれているが
飯盒や風防、ストーブに付された刻印から「SVEA NC67」などと呼ばれるケースもあるようだ。
しかし、世に出回っている物が全てSVEA NC67ではない。一例として自分が所有する物を挙げてみると
飯盒本体(A)と蓋(B)にはそれぞれスウェーデン王国の紋章でもあるトレ・クロノール(Tre Kronor
スリークラウンの意)と"KPP"の刻印。風防の後側上部(C)にはトレ・クロノールと"HP 83"の刻印。
そしてアルコールストーブの底部裏側(D)にはトレ・クロノールと筆記体でTrangiaの刻印がある。

   
これら刻印は個体によって幾つかのパターンがあり、たとえ1つのセットの中でも飯盒・風防・ストーブ
がそれぞれ統一されているとは限らないようだ。色々なパターンがあるのは複数の納入業者が製造し
軍へ納入した事、1つのセットの中でマチマチなのは人の手を経るにつれ入れ替わってしまった事など
によると思われる。
67ではないにしろ、刻印にSVEAの文字と共にNCの後に2桁の数字で構成された物が多いようだが
それら以外も含め、これは納入業者名や単なるロットもしくは製造年を表す記号番号である可能性が高い。
したがって、このような個体によってマチマチなものを飯盒やストーブの名称とするのは正しくない。


では正式名称は一体何かというと、このページhttp://www.soldf.com/enmanskok.html
画像と共にこういう表記がある。

    Enmanskök (Kokkärl m/40)

 ※以下テキスト中においては文字のウムラウト等は省略
エンマンスコック?コッカール?正しい読み方は分からないが、英語ではないのは分かる。
スウェーデン語なのだろうと思い、取り敢えずGoogleで翻訳してみた。
"Enmanskok"は単独では翻訳出来なかったので"Enmans""kok"の二語に分けて翻訳すると
「唯一の(独占的な)キッチン」となり、分かりやすく言い換えると「パーソナルクッキングシステム」
みたいな感じだろうか。

"Kokkarl"は英語でtins、それを更に日本語にすると錫・ブリキ・鍋・缶で、トランギア社
「メスティン」のティンと同じであると推測。鍋や器、要するにクッカーみたいなものだろう。
プリムスのサイトでも"Kokkarl"という項にはクッカーやフライパン、ヤカンなどが掲載されている。

その次のm/40が型番(名称)。国を問わず軍隊では、その装備が制式採用された西暦年を名称にする
事が多々ある。調べてみるとスウェーデン軍も例に違わずその傾向があるので、1940という数字は
採用された年と考えていいだろう。
よく見ると"Aluminium m/44, eller Rostfritt Stal m/40"という表記があり、m/44がアルミ素材で
m/40がステンレス素材だという事が分かる。


しかし、スウェーデン軍関係の資料と思しき物にはこう記されている。

    
これによると、アルミ製もステンレス製も共に"M/40"となっていて、アルミ製を"M/44"とする前出の
ページとは異なる。このような場合は軍資料と思われる方を信用すべきかと思うが、WEBだけの乏しい
情報だけでは実際どちらが正しいか断定するのは難しい。いずれにせよ正式名称として呼ぶならば
NCなんたらではなく、"Kokkarl m/40"もしくは"Kokkarl m/44"、略すならそれぞれ型番である
"m/40""m/44"と呼ぶのが正解であろう。
しかしまぁ、大半の人にとってはどうでもいい事であろうが・・・。

尚、同一資料の別ページと思われる物には、風防・アルコールストーブ・燃料ボトルの3点をまとめて
"ENMANSKOK MT"としており、Kokkarl m/40が全ての物を含めたセットではなく飯盒のみを指している
事が分かる。"ENMANSKOK MT"は後年になってから追加された可能性が高いが、採用時期などについての
詳細な記述は見つけられなかった。
しかし、例のNCなんたらという刻印から、60年代の採用ではないかという推測も出来る。




マニア臭い話はここでちょっと一休みして、次にスウェーデン飯盒周辺の物少々と飯盒のタイプについて。
 いや、これも充分マニアックかな・・・

スウェーデン軍のカトラリーセット
  
ステンレス製のナイフ・フォーク・スプーンが3本合体式で、家庭用としても使えそうなしっかりとした出来。
スウェーデン軍の証であるトレ・クロノールの下に"NORSTAAL NORWAY"と、何故かノルウェーの
メーカーの刻印。自国でも簡単に作れそうな物なのに何故ノルウェーの業者に発注したのか疑問である。
 ※勿論これ以外の刻印の物も存在するようだが。

 元々どちらの国が作った物なのか、採用はどちらが先なのかは不明だが、調べてみるとどうやら
 このカトラリーセットはノルウェー軍でも使用されているようである。(3月1日追記)


スプーンは体格の大きい北欧人に合わせた作りなのかどうかは分らないが、日本人が普段使うような物と
比べると、食べ物をすくう先の部分が遥かに大きい。
3枚目のレザーマン・マイクラを乗せた画像でその大きさがお分かり頂けるだろうか?
これは現在もスウェーデン軍で使用されているようだが、日本国内で未使用の放出品を入手する事が可能。


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これは前回の記事で触れたスタッキングに適した形のプラスチックカップ。

  
楕円形の飯盒の底にほぼピッタリと収まるような形状に作られている。重さ約70g、容量約350ml。
このカップは"kåsa(コーサ) fm/51"もしくは"kåsa m/51"という物らしく、こちらもスウェーデン軍で現在
使用されており、カトラリーと同様に放出品の入手が可能。
 ※誠に恐縮ですが、ここから下の画像は全てネットから拾って来た物です。
 
kåsa m/51以外にスウェーデン軍のカップというとFOLD-A-CUPも採用されていた筈であるが
ネットを探る限り、あの軍用色の物が近年使用されている写真は余り見られなかった。
左側の写真に写っているカップは私物だろうか?

 ※補足
 この
ページ(翻訳)は徴兵されて入隊する人向けの「こんな物があると便利ですよ」という
 ガイドのようなものと思われるが、この中にFOLD-A-CUPが含まれている。
 ということは、過去に於いて制式採用されていたかどうかは別として、現在FOLD-A-CUPは軍から
 支給される物ではなく、PXなどで個人が購入して装備に加える物だと思われる。
   
 近年のスウェーデン軍兵士の写真は後から探せば探すだけ見つかり、その中にFOLD-A-CUPを
 使用している物が散見されたが、やはりその数はkåsa m/51に比べ多くはなかった。
 (2月4日加筆)



 
左は初期の頃の"kåsa m/51"と思われる。右は年代不明だが、古い時代のベークライト製カップらしい。
裏側に付されたトレ・クロノールによりスウェーデン軍の物である事が分かる。

この"kåsa m/51"にはフォールド-ア-カップ同様民生品があり、元々はククサのような
北欧の伝統的木製カップの現代版のような物だと思われる。

  


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「スウェーデン人はスウェーデン飯盒で米を炊くのか?」という話題がたまに出る。
現在のスウェーデン軍に於いては、個々の兵士が缶詰などの食品をスウェーデン飯盒で温め直す
ことはあっても食材段階からの調理を行う事は通常では殆ど無いと言っていいかもしれない。
 (まぁ、これはスウェーデン軍に限ったことではないのだが。)
よって、スウェーデン軍人に限って言えば「炊かない」と考えるのが妥当であろうか。
欧米でもアウトドアでの食事に米を食べる人がいるようなので、民間人ならばもしかすると
スウェーデン飯盒で米を炊いて食べている人もいるかも知れない。
スウェーデン人はジャガイモを主食とするらしいが米も食べる。しかし日本などのように米を炊いて白いまま
御飯を食べる事は多くなく、リゾットのように調理して食べる事の方が多いようだ。

  
これらの食べ物は、予めまとめて作られた物を食事時に配給したように見受けられるが、訓練の
形態によってはフリーズドライのレーション、今風に言うミリメシが配給される。この場合レーションは
袋に入れたまま食べ、メスキットは単に湯沸かしの道具としてしか使用されないケースが多い。

  
 スウェーデン軍の食事に関してはコチラの記事でもう少し触れています。

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スウェーデン軍から放出され世に出回った所謂「スウェーデン飯盒」は、ステンレス製のm/40と
アルミ製のm/44であるが、その両方にそれぞれディテールの違う2種類の物が存在する。


 ■m/44(アルミ製)

 日本国内に出回っている物が殆どこれ。形は同一で、塗装・無塗装だけの違い。
 ネットを見る限りでは海外で出回っている物もm/44が多いようだ。
 某ミリタリーショップのページによると90年代まで使われていた物だとか。

 


 ■m/40(ステンレス製)

 ネットだけを見る限り日本国内では殆ど売られていないようだが、海外ではよく出回っており
 ネットオークションなどでその姿を見る事ができる。これは過去ebayに出品されていた物。
 

  ※補足
  現在、日本国内でもステンレス製スウェーデン飯盒が出回っています。詳細は
コチラ

 ステンレス製2種類を仮にAタイプ、Bタイプとして比較。
 蓋ハンドル及びその取付け金具部分とワイヤーハンドルの形状が異なる。Aタイプ蓋のハンドルは
 変形し易かったようだが、Bタイプで改善されている。
  
 


 参考までにステンレス製Bとアルミ製の違い。
 蓋の段差の大きさ、飯盒本体上部くびれの数が異なる。また、蓋と飯盒本体以外の各パーツはどちらも
 全てステンレス製で、ステンレス飯盒の方は同素材であるためスポット溶接(推測)してあるのに対し
 アルミ飯盒とは異素材で溶接は難しいが故に、リベットでの固定になっていると思われる。
  
 ステンレス製飯盒と塗装してあるアルミ飯盒の比較。金属地肌の色艶の違いが明確に分かる。
 


ちなみに箱形のメスキットも出回っているが、これはKokkarl m/55と言うらしい。




今回はここまで。

    「スウェーデン飯盒 其之参」へ続く



※この記事は殆どネットで調べたものを元に書きました。だもんで不確かな情報や
 個人的な推測がてんこ盛りです。もしかしたら、間違ってる部分があるかも
 知れませんので、ここに書いた事が100%事実だと保証は出来ません。
 この方面お詳しい方、間違いにお気付きになられたら御指摘よろしくお願いします。





スウェーデン軍放出 カトラリーセット

 


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