あの急な所を果たして上手く下りられるか心配だったが、実際下り始めたら登るより全然楽。
鎖場をひとつ下りた所で小学生ぐらいの男の子が登って来た。
更に少し下りたら、その子の弟と両親が登って来たので上で少し待つ。
弟は小学校に上がるか上がらないくらいだろうか。頑張ってるなと感心する。
その子が登るのを下で待つ両親と言葉を交わし、擦れ違えるようになってからまた下り始める。
登りのキツさが嘘のように軽快に下りられる。
滝の前のあの大きな岩の上が空いていたので座ってみる。岩がヒンヤリとして気持ち良い。
大の字になって寝っ転がると、大きな岩が火照った体の熱を吸い取ってくれる。
目を閉じると滝の音。何とも心地良い。
そのままずっとそうしていたかったが、他にも人がいたので独占しても悪いと思い
早々にまた下り始める。
膝が痛み始めたのでペースを落とす。
駐車場に戻って来るまでキャンプの事は頭から消えていた。
ソロキャンの最適地と思い喜び勇んで来たが、現地を見てから迷いが出た。
特に「これ」といった理由は挙げられないのだが何となくためらってしまう。
食料を買いそびれていた事を思い出し、取り敢えず下の町まで一旦下りることに。
車を運転しながらも、あそこにテントを張るかどうか迷い続ける。
途中ダム湖に寄り、サイトを物色するが火器使用禁止の看板が目に留る。
町でスーパーを発見するも迷いのせいで通り過ぎてしまい、そのまま頭の中をモヤモヤさせながら
町中をあっちこっち車でウロウロ走り、気が付いた時にはもう午後3時を過ぎていた。
意を決し慌ててスーパーで食料を調達、あの場所に戻るため車を走らせる。
山へ上がって行くと木に覆われた道は、もう車のヘッドライトを点けた方がいいだろうと
思うくらい暗くなり始めている。
あの大木の前に車を停め、急いで道具を運び下ろしシャングリラを張る。
キャンプ場の中は更に暗い。
真っ暗になる前に全てのセッティングを終えたが、一息入れようと湯を沸かし
コーヒーを飲む間にもどんどん暗くなり空気も冷えてくる。
辺りを包む闇が濃くなれば濃くなるほど、なんだかソワソワしてくる。
ベンチの上に置いたトレッキングランタンとキャンドルランタンに明かりを灯す。
しかしこの程度のランタンでは、手元を少し照らす程度で大して明るくはならない。
いや、どんな大型のランタンでも、その光はこの闇に吸い取られてしまうような気さえした。
少し寒くなってきたので焚火を始める。
焚火動画(31秒、音あり)
この頃にはもう辺り一帯漆黒の闇に包まれていた。
右を向いても左を向いても後ろを向いても、その視線の先には真っ黒な色しか見えない。
入口に停めた車まで上着を取りに行く時ヘッドランプを点けたが、歩きながら途中でその灯りを
消し上を見上げると、木々の合間から小さな星がひとつ見えた。
自分が持って来た物以外で光りを放つ物はその星だけだった。
多分この闇は真の闇に近い。こんなにも暗い夜を過ごすのは久し振りだ。
普段暮らしている田舎町でも夜は結構明るく、これまでキャンプした場所もここまでの暗さは無い。
多分、今日ほど火の有り難みを強く感じた事は無いだろう。
古来人類が火を使い始めた時もこんな気持ちだったんだろうか。
それにしても、いつもより薪を焼べるペースが速いような気がする。
火にあたっている間水に浸けておいた米を炊き始め晩飯の支度。
炊いた米にレトルトのハヤシを掛けてハヤシライス、ハヤシを温めた湯を沸かしてコーンスープ。
メニューはこの2品だけ。サラダも買ってあったがその存在をスッカリ忘れていた。
大抵満腹になると心も落ち着くのだが、なかなか今夜はそうもいかない。
すぐ前を流れる川の音が結構大きいにも関わらず、川以外の自然が発する音がよく聞こえる。
周囲が闇に包まれているせいで目から入ってくる情報が少ない分、耳が冴えてしまうのだろうか?
色々な音が聞こえる。しかし、その多くが何の音なのか正体が分からない。
何か音がするとヘッドランプを点け、音のする方を確認してしまう。
少々恐怖を感じているのだ。
午前中、最初にここへ来て写真を撮りながらウロウロしていた時は、怖いなどとは
これっぽっちも思わなかった。
しかし、ここでキャンプするかどうか迷い始めたのは、この恐怖を自分でも気付かぬうちに
予感していたからなのかもしれない。
今までこんなシチュエーションでも割と平気なつもりでいたが、今夜自分の弱さを改めて思い知った。
少し感じた恐怖が増幅しないうちにシャングリラの中へ入り、小さなLEDランタンの灯りを点ける。
いや、入るというよりも逃げ込むと言った方が良いかもしれない。
薄っぺらなナイロンの布とは言え、外界から隔てられる物があるとやはり落ち着く。
Shangri-La 今の自分にとっては正に桃源郷なのである。
寒かったのでシュラフに潜り込んだが、まだ寝るには早いので本を読む。
読んでいる間は内容に引き込まれているせいか、外で何かの音がしても全く気にならない。
暫くして本を置き、シュラフのジッパーを上まで引き上げる。
LEDランタンの灯りは消すことが出来なかった。
かなり早くに目が覚めたが、まだ外は真っ暗なようなのでシュラフから出ずにまた目を閉じる。
再び目覚めると少しだけ明るくなっている。もう少し明るくなるまでと、また目を閉じる。
今まで聞いた事も無いような音が外から聞こえ、また目が覚める。
熟睡は出来なかった。
夜中に目が覚めるがすぐにうつらうつらする、うつらうつらするが暫くするとまた目が覚めてしまう。
そんな状態が何度も繰り返され、あまり寝たという実感も無く、まるでずっと夢でも
見続けているかのようだった。
コーヒーを飲みながら今日一日どうするか考えるが何も浮かばない。
取り敢えず朝飯の支度。
湯を沸かし
コイツを煮る
ハイ、出来上がり
まず先に麺だけを食い、残ったスープを前の晩多めに炊いて残した米と合わせる。
そこへ水を足し、ラーメンに乗せて食うつもりで買った角煮をタレごと投入し少し煮る。
ラーメン雑炊角煮入り
角煮が甘過ぎてあんまり旨くなかった。
結局今日やりたい事も特に無いので渋滞にハマらないうちに早めに帰ることに。
撤収前にちょっとだけ写真撮影。
またシャングリラがヨレヨレのダルダルですな
もしかすると、ワイルドなキャンプに憧れを持っている自分は「秘密の花園」という
甘い言葉でまんまと誘い出され、その実態である森への入口(自然への入口)に於いて
その中に立ち入る資格があるかどうか試された、或いは、己の弱さを突き付けられ
まだその資格は無いと戒められたのかもしれない。
このキャンプから数日経った今現在、記事を書き振り返りながらそんな風に思った。
「森への入口」おわり
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